最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)66号 判決 1958年2月13日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
論旨第一点について。
原審が適法に認定したところによれば、上告人は他の組合員全員(松尾正信、鈴木栄および木内幹)の承諾を得て組合員の共有に属する金員を借用し、且つ右組合員全員の同意の下に、その返還債務を確保する目的で組合員の一員である松尾正信を受取人として本件手形を振り出したというのであるから、右手形上の権利を行使する限りにおいては、受取人である松尾正信単独の行使につき、予め組合員全員の同意があつたものと認めうることは明らかである。それ故、所論の違法は認められない。
同第二点について。
民法が、組合員の死亡を脱退の原因とした所以のものは、死亡した組合員の相続人をして、当然に組合員たる権利義務を承継せしめることが、組合員相互間の信頼関係を破ることとなるのを慮かつたものであつて、右は、組合の存続を前提とした規定と解するを相当とする。本件におけるごとく、既に解散した組合にあつては、もとより組合の存続を前提としないのであるから、死亡を脱退の原因として持分の払戻およびこれと表裏をなす残存組合員の持分の増加を認める必要なく、死亡者の有した残余財産の分配請求権の相続を認めれば足りるのであつて、この点に関する原審の判断は正当である。その余の所論は、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号ないし三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔)